アトリエ・フォン・ナーゲルという言葉をご存じですか。ほとんどの方はご存じないと思うのですが、ピンとくる、ピンときちゃう、という方が一部界隈にいます。
それはチェンバロ界隈です。チェンバロという楽器はどういう楽器?ピアノができる前からヨーロッパの音楽界で広く用いられていた鍵盤楽器です。ピアノの前身である、というとチェンバロ本気勢からお叱りの言葉を受けることもあるのですが、チェンバロという楽器があってピアノが生まれた、ということについては間違いがありません。なおピアノは18世紀初頭にフィレンツェで爆誕するんですが、チェンバロがどこでどうやって産声を上げたのかは不明。
ともかくチェンバロはピアノよりも歴史が古い。そして現代でもチェンバロ・リサイタルという言葉もあるぐらい、世の中で熱心に演奏されている。ではチェンバロという楽器はどこで出会えるかというと、全国のコンサートホールが所有していることもけっこうあって、しかも、アトリエ・フォン・ナーゲルという会社の楽器であることがかなり多いのです。
これはなぜかというと、主にバブルの頃前後に建てられたホール、まだ日本にお金があった時代(ああ過ぎ去りし過去!!)、チェンバロを全国に納入していたモモセハープシコードという会社があり、そこがアトリエ・フォン・ナーゲル製の楽器を多数、輸入して売っていたのですね。営業力のたまもの!すごい!全国津々浦々「チェンバロがあります」というホール、だいたい(ちゃんと数えたことはないからわかりませんが、けっこうな確率で)アトリエ・フォン・ナーゲルだったりします。
チェンバロは持っているんです、でもどこのメーカーかは調べないとわかりません。ほら、これです。楽器庫に入った瞬間「あ、これはアトリエ・フォン・ナーゲルです」。と私が知った顔をして言う。どうしてどうして!!浮かぶ驚愕の表情。本当だっすごい!!得意満面にニタニタ笑うイヤミなやつ、それはお前のことだ!!
なんでわかるかというと、特別に作られた独特な鉄枠の台の上に楽器が載せられているからです。これはモモセハープシコード製。この台を使って移動させればスーッと行けて簡単だし、取扱注意、壊れやすいこの楽器も、鉄のバーのおかげで障害物などから守られる!!
先日ツアーしたマチェイ・スクシェチュコフスキも、福井、そして兵庫でフォン・ナーゲルの楽器を使用しました。日本にとって極めて重要な楽器メーカーであり、及ぼした影響は計り知れませんね。その創立者であり、1000台を超すチェンバロ製作したラインハルト・フォン・ナーゲルがパリで死去したというニュース。1936年8月生まれ、89歳だったとのこと。しかしフォン・ナーゲルの名前はこれからも日本では輝きを放っていくことでしょう。
ご冥福をお祈りいたします。


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