公共ホールの危機

給食の会社がいきなり倒産したというニュースがあり、いろんな記事を読んでいるとめちゃくちゃな運営をしていたみたいでやばいな、と思うと同時にクラシック音楽のコンサートの場であるコンサートホール、特に公共ホールと呼ばれる場所も危機にある、ということも感じています。給食で起こった事はコンサートホールでも起こり得る。大雑把だと突っ込みも入りそうですが、普段見聞きしていること、そこから感じている事を少し書いてみたいと思います。もちろん以下に書いている事が当てはまらないところもある、ケースバイケースである、ということも付け加えておきます。

ホール、あるいは箱物には莫大な維持管理費がかかります。公共ホールと呼ばれる場所では、出て行くお金の方が入ってくるお金よりも多い。公共ホールは市民サービスの一環としてあるものなので、多くの場所では安いレンタル料でホールを貸し出しています。空調、掃除、舞台サービス、事務費ほか、本来かかっている費用の方がレンタル代よりも高いのです。その分はどうしているかというと、補填されているわけです。税金などで。

無料で誰でも本を借りられる図書館とは違いホールは「お金を払って利用していただくもの」。なので、ある程度の収入はあります。しかし必ずしも、ホールの稼働率は100%なわけではない。場所によっては100%近く、あるいは100%を超えているところもごくごくまれにあるんですが(もともと区分として用意されていない深夜や早朝に準備や撤収をする、とかいう場合なんかがそうです)、ほとんどのところはそこまではいかない。そしてレンタル代は条例であったり仕様書などに明記されていたりだとかして、運営にあたっている団体が自由に上げ下げできるものではありません。

立地がよくない、人口がそもそも少ないところでは稼働率は伸びないかもしれないし、数字は毎年上下するでしょう。つまり、ある程度の予測は立てられるかもしれないが、その予測だって大きく外れることもあり、上振れすればラッキー(ただし余った利益は全部市町村に返金してね、となっているところもあります)、しかしコロナの時のように激しく下回ると、収入が減じ、ホール運営を圧迫することになる。

そしてさらにリスクが高いのが「主催公演」と呼ばれる、ホールの自主企画ですね。どうしてリスクが高いのかというと、原価があるから。お金を頂くレンタルとは違い、出演者や企画、宣伝にかかる費用、出て行くお金があるから。そしてそれは本来チケット代収入で回収していくわけですが、チケットが売れないとどうなるか。赤字です。出演料が高い企画が売れないとどうなるか、大赤字です。どれぐらいの大赤字かというと、大型の企画、たとえば海外の著名オーケストラとかですと、下手すると1つの公演で千万単位での赤字が出ることもあります。

これは売れるだろう!と思っていた企画が、全く売れない、というようなこと、あります。コロナ後徐々に聴衆は戻ってきている、そういう感覚もないわけではないのですが、しかしそれでも以前のような活気はまだありません。またクラシック音楽のコンサートはますます高齢化していて、若者も入ってきにくい。

そもそもがコンサートというものに博打的な要素も多分にあり、世のトレンドを読む力、人々の半歩先を行く先見の明、あるいは人気アーティストの出演を実現するための交渉力、人脈なんかが企画する側に求められるんですが、そういう人材が圧倒的に足りていない。

なぜか。待遇の悪さもあるでしょう。給料は安い、人が足りていないので拘束時間が長い(ホールはどこもたいてい朝から晩まで開けています。朝9時開館、夜10時閉館とかです。休館日は年末年始だけ、みたいなところもわりとあります)、休みもとりづらい、コンサートは土日がメインだから家族と休みがずれる、など、魅力的な職ではないのです。

さらに、いまは指定管理者制度というものがあります。「入札」の名前のもと、とりあえず仕事とってくるぜ!とばかり、ホール運営を激安で請け負う、激安で入札をする会社もあります。反対に、伸び悩む税収や膨らむ支出などによって、激安で依頼せざるをえない市町村もあるでしょう。激安で委託契約が結ばれたとする。そういうホールでは残念ながらさらに人件費が安く、言葉は悪いが人は使い捨て。どんどん雇ってはどんどん辞めていく、みたいなことにもなる。

そういう場所ではなにか面白いことをしようぜという雰囲気にはなかなかならないということは想像がなんとなくつきます。自主企画は、売れるもの、人気あるもの、テレビやネットで話題になっているものにばかりに集中する。自主企画がもしも転んで(チケット売り上げが低迷して)金銭的に大きな穴が開くとホール運営が危うい、さらには責任問題に発展するからです(共催というやりかたもあるんですがこれについてはまたいつか書きますね)。

かつては売れる企画で売れない企画の赤を補填する、というやりかたもあったがそれすら難しくなっているという時代でもあります。本当に売れるものだけに人気が一極集中しがちなのです。売れる企画の奪い合い。なので人気アーテイストの値段は高騰する(完売しても赤字かもしれない)、事務所に連絡をしても返事すらもらえない、というような事も起こります。

博打的要素の強い主催公演はやらず、ひたすらホールのレンタルだけに徹して、あとはじっと体力を温存する、そういうホールも多くあります。それですら維持出来なくなって指定管理者が逃げ出している、入札者なし、みたいな所も出てきています。なんとかならんのか。そもそもが箱物が多すぎるのが問題かもしれません。建てるのなら建てて満足するんではなくて、10年20年30年、あるいは50年100年と、長い目で見て頂けないかと思います。建てるのと運営は別なんです。

昨夜あるオルガニストと話をしていましたが、ドイツでも一番最初に切られるのは文化だ、と言っていました。どこの国でも同じ悩みを抱えているなと思いました。

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