イヴァン・フィッシャーがベルリン・フィルを降板した理由は

イヴァン・フィッシャーはハンガリーを代表する指揮者の一人。兄のアダム・フィッシャーも指揮者で、アダムは特にオペラで渋い存在感を放ち、イヴァンは華やかなオーケストラのコンサートで力量を発揮する、というような感じでしょうか(印象には個人差があります)。

イヴァン・フィッシャーが来週のベルリン・フィル公演を急遽降板したのですが、その理由がなかなか珍しく『自身が希望するオーケストラの配置をベルリン・フィルが拒否したため』。ベルリン・フィルの公式な発表によると、お互いの立場を尊重した上で、合意の上で降板が決まったとあります。

本人は「ベルリン・フィルは私の提案した座席配置を受け入れてくれませんでした。この配置は非常に重要です。作品の響きと一体感にとって欠かせないため、妥協することはできません」と書いています。

そして急遽代役として登場するのがアンドレス・オロスコ=エストラーダ。コロンビア出身の指揮者です。オロスコ=エストラーダはもともと予定されていたハイドンの協奏交響曲とマーラーの交響曲第5番を変更せず指揮する。ベルリン・フィルには2017年のデビュー以来、9年ぶり2度目。

フィッシャーがどこまで特殊な配置を求めたのかはわかりませんが、Klassik Radioに書かれている、以前やったことがあるフィッシャー式配置は:

・コントラバスを木管楽器の後ろに
・金管楽器をオーケストラの側方に
・第1・第2ヴァイオリンを左右に分ける

特に金管楽器についてはやや突飛にも感じられますが、本人の説明によると、奏者同士が自分やほかの奏者の音を聴きやすくなり、それがオーケストラの響き、とりわけ音程に影響するのだそうです。そもそも19世紀においてオーケストラはもっと自由に座っていたこともある、という歴史的な事実はありますものの、オーケストラは指揮者がこうしたいと言っても簡単に「はいそうですかわかりました」と了承してくれるものでもありません。過去から現代にいたるまで、さまざまな指揮者がオーケストラとぶつかり、時に成功し、時に失敗してきた。

フィッシャーはオーケストラの真ん中に立って指揮してみたり、おさかなに向かって話しかけたりするようなアイデアマンのようなのですが、奇抜な(と思われる可能性のある)アイデアはなかなか受け入れられないかもしれない、ということでしょうか。

新しいことに挑戦する時はどうすればいいのか、という事を考えるヒントとなるのかもしれませんね。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • カルロス・クライバーも客演時、コントラバスを後方に配置するよう要求したそうですが、却下されたとか。ウィーン楽友協会(におけるウィーン・フィル)が念頭にあったのでしょうが、すぐ後ろが壁という構造ではないフィルハーモニーではマイナス、と楽団側が判断したようです。

  • フィッシャーらしいといえば実に彼らしい決断。自分の手兵(ブダペスト祝祭管)なら自由自在に試せるアイデアも、伝統と自律性を重んじるベルリン・フィル相手では衝突してしまうのは必然だったのかもしれません。とはいえ、音響と作品の統一感のために「妥協して振るくらいなら降りる」という筋の通し方は、真の音楽家として清々しさすら感じます。

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