ヌッチ、来日 ★★★★★★(6/5)

コンサートというのは、この日この時にここにいてよかった、と思える、そういう体験がときどきあるから素晴らしいわけです。ああ今日はよかったな、と思うのも、だめだったかも、と思うのも、スポーツ観戦なんかとも一緒ですね。試合に負けたら悔しいし勝ったら気持ちがいい。そして優勝がきまったその瞬間に居合わせた喜び、アドレナリンといったら!!

「有終の美」と書かれていたことからも、おそらくこれが最後の来日になるのではないかと思われるわけです。

年齢的(81才)なことを考えても、あまり声は出ないだろうし、長年の経験で培った表現力やなんかでカバーしながら、それでもみんな感動して帰るのだ。音程も定まらず声はかすれ、はらはらするがそれも含めて今日という日は特別な日になる、きっと。と思いながら席について待っていたところ。

大幅に遅れて始まったその一音目から度肝を抜かれたわけです。プログラムにないアリアの前奏が始まり、全員座り直したと思うんです。うそやんフィガロやん。むしろ「やばい!歌えるのか!!!」と全座席が固唾を呑んでガチガチに固まったその瞬間・・・。

うおおおおおむちゃくちゃ声出るやんけ!この瞬間にこのコンサートは完全勝利となった。圧勝。100点満点中2024点がいきなり叩き出された。疑ってごめん。見守ろう、とかチラリとでも偉そうに思ってごめんなさい。スライディング土下座。

全オペラシティコンサートホールがあの第一声でガーンと殴られ号泣したと思うんですよ。「のどの調子が悪くてキャンセルしたことはない」という恵まれすぎの身体、「毎日勉強する、歌う(孫のためにカルボナーラを作る日曜日以外)」、というストイックな姿勢、そのほかすべてがあわさっての昨晩があったのですね。堂に入った演技はいやみがなく自然、会場にむかって「ほら歌いなよ」「もっと大声で!」と身振りでのせていくやりかた。

昨晩一番感動したのはここ。レオ選手に促されての《わすれな草》のホール中の大合唱。そして《オーソレミオ》でのさらなる大合唱。本気で歌ってた歌手の声も聞こえたような気がしたぞ。それにたいしておっしゃ!とグー!してみせるじじい。

やばい。感動した。最強過ぎる。

私の左斜め前にお座りだったイタリア女性も客席の大合唱には度肝を抜かれたらしく、キョロキョロと満面の笑みで振り返っていた。なんでやなんで日本人がイタリアの曲の歌詞を知ってんねん?なんで歌えるねん?そらそうや。日本をなめんなよ。日本はまだ捨てたもんじゃないな。そして終演後間髪入れずに始まったアフタートークでは、会場のかなりの数の人がイタリア語を理解していたのもすごいなと思いましたね。ヌッチの発言に通訳をはさまずリアルタイムで反応してたもんな。アイカピート。オッカピート。

今週土曜日にはサントリーホールでオーケストラとの共演もあるけれど、まだチケットがあるみたいなんで、冷やかしとかじゃなく、普通に絶対に行きべきです。遠征しても損はしない。長らくオペラに関わられた業界の大先輩も休憩中に「まるで20世紀を思い出すような見事なコンサートだ。ほんとうに素晴らしい。」と興奮されていました。

土曜日は溜池へ走れ!まじもんのスーパースターの姿がみられるで。

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