化け物かと思っていたのですが、やはりご無理はなさらないほうがいいと思うのです。体調不良から復帰した80歳の老大家ダニエル・バレンボイム、今週から奇跡の6連続ピアノ・リサイタル公演が予定されていて、それに関する詳細は以下のブログでお伝えしていたとおりだったのですが、
少なくとも初日、明日10日に予定されていたモナコのモンテカルロ公演は中止になった。
https://www.opera.mc/en/news/daniel-barenboim-cancels-his-recital-tour-maxim-vengerov-stands-in
モンテカルロのウェブサイトをみると「過去数週間で健康状態は上向き指揮できるまでに回復したものの、ピアノを演奏するだけの筋肉は戻ってきていない」とあり、さらによく見るとタイトルに「リサイタルツアーを中止」とばっちり書かれているので、このあとの5公演もほぼほぼ絶望ではないかと思わせられるのですがどうでしょうか。他会場ではまだアナウンスはしていなそうだ。モンテカルロは遠いけど、スイスやドイツなら、みたいなミラクルもひょっとするとあるかもしれません。可能性は低そうだけど。
モンテカルロでは代役が登場。マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)のリサイタルが開催されるということで、うおーい!方向性全然ちがうやんけ!!って一瞬思いかけましたけど、でもバレンボイムの代わりを勤められるような大物ピアニストっていうのはって滅多にいませんし、これはこれでええんやで、っていう感じ。
それにしても、14日のチューリヒ以降もしも無事に舞台に立てた場合ですが、「もしかするとこれが最後かもしれない」という思いが聴衆にも働いて、めちゃくちゃ感動的なコンサートになることはまず間違いがない。
おそらく、全盛期からはほど遠い、状態はよくない、というような批判的コメントも出てくるかと思うのですが、会場に魔法がかかったような雰囲気になることはまず確実です。そしてそれでいいのだと私は思います。音楽体験というものはとても不思議なものです。一人の老いて身体のコントロールも思いのままにはならぬ音楽家がいる。だが、舞台に出て演奏をしたいと願い、そして実際に演奏している。舞台上で自分をさらけ出している。そんな行為を目撃して心に何も響かないなんていう人はあまりおられないのではないですか。
もちろん、極上の演奏というわけではきっとない。でも「ひび割れた骨董」(1983年に吉田秀和が不調の老ホロヴィッツ初来日コンサートを聴いて書いた批評の中に出てくる大変有名な一文)などとばっさり切る必要もない。ただ目撃する、体験する。それは大きな得がたい記憶となって個々人に残るのではないかと思います。実際私もギトリスの最晩年の演奏会のことは鮮烈に記憶していますから。
バレンボイムの健康回復を引き続き祈りたい。
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