今年の9月11日はみなさま何をしていましたか。よい一日でしたか。弊社にとってはとっても良い日でした。主催公演をしていたんですね。中川優芽花のピアノ・リサイタル。
ラフマニノフの前奏曲、シューマンの子どもの情景、リストのロ短調ソナタ。という、ロマン派ピアノの、ザ・王道作品を中川優芽花が演奏しました。王道で勝負できるというのは、つまりそういうことです。王道を行く才能なのです。
私個人としてはフルフルのソロ・リサイタルを聴くのは二年半ほど前の武蔵野以来。とても久しぶりでしたので、さあいかに、という気持ちもないわけではありませんでしたがそんな心配は全くの無用じゃった。
めちゃくちゃに弾けていたし、めちゃくちゃにニュアンスに富んでいたし、音楽には喜び、驚きが満ちていました。才能が、はじけていました。ぱちんと。ではなく、どんがらがっしゃーん!!!!!と。
リストのピアノ・ソナタロ短調はそれこそ数限りなく聴いてきましたが、そのソナタからかつてない響きが聞こえてきたのにも驚愕しましたね。これは「あら不思議ね~、聴いたことない音がするわ~」(和音、間違うてるで)、っていう意地悪でいけずなピアノ教師的な発言ではなくて、和音のどの音をより響かせ、より響かせないか、そのバランスの妙というやつでしょうか。愕然とするほど興味深い響きが聞こえてきて、これは一体どういうことや、どないなっとんのや。まるでハンマーでガーン!!と頭を叩かれたような、そういう衝撃を受けたのでした。すごい音がしたんだぜ。
あとで尋ねたところ、「いやーあれはですね、すこし不協和音を強調してみてですね」などとメガネっ娘はニコニコしながら答えるではないか。むむむ!!出来る!!まるで妖刀村雨のような、とてつもない切れ味でバサバサとなぎ倒していったのであった。最後に残った気持ちは何か。「鮮やか」。
シューマンに関しては、一瞬、おとなしいかな?とも思ったのですが、よく聴けば左手のバスラインの動きなど和声感がとんでもなくハイセンスに弾かれていました。シューマンという作曲家は死ぬほど和声(いわゆる理論ですね)が出来たらしいですが、そのシューマンが積み上げたとてつもない和声の妙を、なんのてらいもなく、上質の白身魚のように淡白かつきっちりと味わわせてくれる。何という高度な技でありましょう。繊細極まる和声感覚は、あのラドゥ・ルプーにさえ比肩するものでありましょう。いやむしろルプーを超えている!と語った人さえ。
とんでもない二時間であった。中川優芽花の、今後のますますの活躍に期待したい。ゆっくりじわじわとでもいいので、しっかりと登って行って、気がつけば周りにはもう誰もいない。そういう唯一無二の存在を目指してほしいと心から願うものです。皆さんもどうか生暖かく~激烈に、ぐらいの間のどこかのあたりで、中川優芽花を応援して頂けますと大変幸いです。
なお浜離宮朝日ホールのステージにはマイクロフォンが立っていたのに気がつかれたでしょうか。NHKの収録がありましたか、といったご質問も受けましたが、これについてはまた遠からず発表できることもありますでしょう(思わせぶり)。
コメント
コメント一覧 (2件)
アンコールの「ヴォカリーズ」は、編曲者はどなたですか?
編曲はリチャードソンですね。ブージー&ホークスから出版されています。
https://www.boosey.com/publications/sheet-music/Sergei-Rachmaninoff-Vocalise-Op-34-14-Piano/1543