クラシック音楽に足りないのは(求められるのは)ワクワク感である

何を言うてんのや、と言われるかもしれません。クラシック音楽は静かに座って聴くもので、派手にワーキャーと騒ぐようなものではない!不謹慎だ!という声も聞こえてくるようだ。

でも待って。じゃあみなさんは何を求めてコンサートに行くのですか。非日常を求めて、素晴らしい演奏に唸るため、自分のコンサートライフ最高のあるいは上質の体験を求めて行くのではないですか。それってワクワクやろ。

「ワクワク」という言葉を遊園地のジェットコースター的なものと位置づけるのか、静かに座席でアドレナリンをシューシュー放出するものと位置づけるのかは人それぞれなのでしょうけれど、しかしいずれも大きなくくりで言えばワクワク感ですよね。ですよね(ちょっと不安なので確認してみる人)。

ワクワクというものはしかし、長続きしないんですよ、残念ながら。あんなにアツアツで、近づいただけで火傷しそうだったカップルがマンネリからの、破局!!ですとか、最初はうまくいっていた首席指揮者との関係が徐々に冷え「もう来なくていいよ」になる、そういうこともしばしばというか、そういう話しか聞かないと言っても過言ではありません。それだけ人は飽きっぽいし、どうすればそこから逃げ出すのかということもみな多少なりと考えているわけです。だから「なんか面白いことないかな」ってみなさん思うんだと思うんですよ。

クラシック音楽の難しさがここにあります。100年200年前の、長い間存在してきた演目を、決まり切ったスタイルで、決まり切った場所で、決まり切った時間にやるわけだ。そこからワクワクを創出するのは容易ではない。

とはいえ、やる方だって黙ってはいない。聞いたことのないような作曲家のまるで想像もつかないような作品をやる、マラソンコンサートをやる、とんでもない演出でやる、突飛な時間にやる、かつてなかったような場所をステージにしてやる、別ジャンルの有名人とコラボする、スーパースターを担ぎ上げるなど、「どこかが違っていて、ワクワクする」ためのさまざまな試みが行われてきましたし、これからも行われていくのだろうと思います。

おもしろそうやん!

て思ってもらえたら勝ち(勝ち負けではないけれど)。

ニコラス・コロンが率いるオーロラ・オーケストラについて言えば、暗譜で演奏する、という取り組みをずっとやっていて、すんげーわけです。いわゆる伝統的なオーケストラで「暗譜でやって」というリクエストは不可能。猛烈な反発が来てあえなく断念へと進むことは必至。プロオケにはその公演だけじゃなくてほかにも多数の公演があり、暗譜という複雑で困難な作業をするための時間がとれない、そもそも暗譜で演奏する意味ない、などと激烈にメンバーから突き上げを喰らい、あえなくその話は無かったことになるであろう。

それはそうだ、プロオケにそんな事を求めてはいけない。でもオーロラ・オーケストラはそもそもが「暗譜でやる」ということを前面に押し出してきた若いオーケストラであり、工場でベートーヴェンの交響曲を弾く、しかも演奏家は会場のあちこちに散らばっていて、聴衆は歩きながら演奏を楽しむことが出来る、というようなへんてこでおもろいプロジェクトも成功させてきた(チケットは一瞬で売り切れた、とこのプロジェクトのマネージャーから話を聞いたことがあります)。

ピアニストとかヴァイオリンのソリストなんかにとって「暗譜」はある種当たり前的なものなんだと思うのですが、複雑に音楽が絡み合うオーケストラでは無理。それが何となくの常識だったのを打ち破ってきているので、本当におもろい。

しかもこのたびはBBCプロムスで、暗譜で「春の祭典」を演奏して見せたというではないか!!!なにぃっ!!!

Aurora’s Rite of Spring review — one of the most breathtaking Proms in historyThe Times
https://www.thetimes.co.uk/article/auroras-rite-of-spring-review-one-of-the-most-breathtaking-proms-in-history-dmxjh97xf

これがどれだけ驚愕の出来事なのか、チャレンジングなことなのかはオーケストラ音楽に親しんだ人なら一発でおわかりいただけることでしょう。曲の持つ爆発的なエネルギー、複雑で野性味溢れるリズム、100人を超す演奏家がいて、楽譜を見ていても指揮者が振り間違える超難曲。それを、なんだとう?「みんな暗譜で」やっちまっただとう!!まさかそげんことが!!

これぞワクワクの最先端ですよ。上のタイムズだけでなくどの批評も星五つ、文字通り「激賞」っすよ。これだよこれ。

日本の音楽シーンにも、こういったひねりというか、ワクワクがもっと、あるいは少なくとも時々は必要だと思うんですよ(これまで通りの音楽をやめようというわけではありませんのでお間違えのなきよう。素晴らしい演奏家による素晴らしい演奏会は本当に素晴らしいんですよ。素晴らしいしか言ってないけど)。

おもしろうそう、だいじょうぶか、あっあっ、頑張れ!!っていうヒヤヒヤ感。

あ~ダメだったかぁ、でもいいんです。何かにチャレンジする姿に人は心を動かされると思うんですよね。先日iPadがフリーズしたにも関わらずそこから復旧させてみせた薗田さんの姿にみんな感動するしバズるっていうのもやっぱりアドレナリンだから。

私たち、仕掛けていく側もそういうのを考えていかないといけないなと思いますよね。ところで、、あっ!!(わざとらしい)、ウィーンフィルの新コンサートマスター、ヤメン・サーディという人物も「25歳で就任」「入りたてホヤホヤ」さらには「アラブ人で史上初めて」というブレークスルー。こういった点がささやかながらも実はもの凄いワクワクポイントだと思うんですよ。はっきりいってこの人はその存在そのものが事件なんですよね。だからみんな一緒にヤメン・サーディの日本初登場を目撃しようぜ!!

11月22日(水)19時開演 浜離宮朝日ホール(大江戸線・築地市場駅すぐ)
ヤメン・サーディ 日本デビューリサイタル詳細とチケットはこちらから

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