ロシア出身の大ピアニストで指揮者で作曲家のミハイル・プレトニョフが戦争後に祖国ロシアを出て、スロバキアの首都ブラチスラバに新しいオーケストラを作ったらしいと言うこと、そしてラフマニノフの名前がそこに冠されていることは知っていました。すなわち、ラフマニノフ国際管弦楽団(https://www.riorchestra.org/)。
ぐうたらな私は積極的に今日までこのオーケストラについてちゃんと調べるということをしていなかったのですが、Diapason誌に記事が出ていたので読んでみました。なるほど面白い、と思ったのでご紹介したいと思いました。
Mikhaïl Pletnev crée un nouvel orchestre hors de Russie – Diapason
https://www.diapasonmag.fr/a-la-une/mikhail-pletnev-cree-un-nouvel-orchestre-hors-de-russie-39405.html
興味深かったのは「ラフマニノフという作曲家は祖国を愛していたが、支配していた政治のために祖国を離れ、二度と戻ることはなかった芸術家であった」こと、それにちなんで名付けられた、という点です。
プレトニョフは自分や仲間たちの姿を(この新しいオーケストラにはかつてプレトニョフがロシアで1990年に設立し30年にわたって率いていたロシア・ナショナル管弦楽団の元メンバーも複数いる。なおプレトニョフはロシア・ナショナル管弦楽団の音楽監督の職を解任されている)、ロシア革命の後出国し、二度と帰国することのなかった祖国の偉大な作曲家、ラフマニノフに重ね合わせているわけだ。説得力そして悲しみもまとったアイデアだ。祖国が嫌いな人なんてなかなかいないもんね。
なおこの新オーケストラの名称は、レパートリーを限定的なものにするものではない、つまりラフマニノフや後期ロマン派の作品ばかりをやるわけではない、ということです。ラフマニノフっていう名前が付いてるからラフマニノフばっかりやるんですか、やるんでしょう、って誤解されたくないということですねわかります。とはいえ、今年はラフマニノフ生誕150周年なんで、敬意を表してですね、ピアノ協奏曲4曲とパガニーニ変奏曲のコンサートと録音をスイスでやるということだそうです。
ところで、このようなオーケストラはどのように位置づけられるべきなのでしょう。いわゆる歴史や伝統のあるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団やウィーン・フィルといったオーケストラとはそもそも性格が大きく異なるものですし、祝祭管とかそういうもののように、特定のイベントや音楽祭の期間中だけに集まるというものでもない。
プレトニョフというカリスマのもとに人が集まり、演奏し、それを聴くという行為が行われているわけなので、プレトニョフが不在になったら、成り立たないものなのでしょうか。
しかしたとえばケント・ナガノがこのオーケストラに賛同しレコーディングも行うようなので、今後次々と一流指揮者がやってきて指揮する、鍛える、そしてやがては一流のオーケストラとして世界中に名を轟かすことになるかもしれない。そしてそれがプレトニョフの狙いなのではないでしょうか。22世紀にはクラシック音楽のオーケストラ界におけるもっとも重要な存在になっているかもしれない。そういうのもいいよね。
可能性は無限に。人間の想像力は果てがないし、常に可能性の窓を開いておくとやがてそれが実現する日も来ようと言うもの。
プレトニョフとこのオーケストラはラフマニノフのケースと違って帰国がかなうといいなと思います。ってのはナイーブ過ぎるんだろうか。
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