ミラノ・スカラ座はボリス・ゴドゥノフを上演する

12月2日にムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》で2022/23シーズンの幕を開ける予定のミラノ・スカラ座に対しウクライナ領事館が「プーチンのロシアは自らの偉大さや主張に重みを持たせるべく文化を利用している」との理由とともに中止を求める書簡を送ったそうです。それに対し劇場側は強く反発。関係者は「許されない」と憤り、音楽監督リッカルド・シャイーは反論した、という話。

https://operawire.com/riccardo-chailly-responds-to-ukrainian-consul-over-teatro-alla-scalas-boris-godunov/

https://www.corriere.it/spettacoli/22_novembre_12/prima-della-scala-boris-godunov-ffa2bcb4-61eb-11ed-98f8-463cfe0502bc.shtml

シャイーは「ウクライナとともに紛争の終わりを待っているが、政治が文化を強制することはできない」、また親ロシア派のプロパガンダにはなり得ないとしてウクライナ領事館の要望を拒否。イタリアの新聞コリエーレ・デラ・セラに対しては以下のように発言しました。

「開戦の1ヵ月後、100人の音楽家と国際的なキャストで、ウクライナを守るという意思表示をした。4月4日にはロッシーニの『スターバト・マーテル』を演奏したが、これは戦争に対するミラノ人の痛みの叫びだった。出演者たちはこの日ギャラを受け取らず、ウクライナ難民のために38万ユーロが集まった。狂気と皇帝の死で終わる名作(=ボリス・ゴドゥノフ)の上演をとりやめることは、文化にペナルティを課すことになる。『マクベス』と『ボリス』を結びつけてみて欲しい。権力の濫用は消耗や狂気に至る。我々はシェイクスピアを廃止させたいと思うだろうか?1月にはチャイコフスキーを演奏するし、ウクライナの天才プロコフィエフの没後70周年記念コンサートも行う予定だ。芸術に対する客観性が欠けている。2月24日以来起きている大混乱の代償を、芸術が払ってはならない。」

ウクライナ領事館がロシアやロシアにまつわるすべてを否定したいという気持ちも理解はできますが、過去の作品にまで踏み込むのは「キャンセルカルチャー」といわざるを得ないでしょう。ロシア人にしても誰もが戦争を支持しているわけではないし、ロシアの文化は素晴らしいものだし、ロシアの音楽家たちも素晴らしい人たちなのは間違いありません。なおシャイーがプロコフィエフをウクライナ人としているのはやや無理がありますけれど、まあでもウクライナで生まれていることは間違いない(プロコフィエフが生まれた地、ドネツクの空港はセルゲイ・プロコフィエフ国際空港と名付けられています)。

世界のクラシック音楽界としては、ロシア政府べったりの音楽家の登用はNGとしても、一般的に言ってロシア人演奏家の出演については排除しないし、ロシア音楽も演奏をしつづける。このようなスタンスのところが多い、という風に私は感じています。これがバランスのとれたやり方なのだろうなとも思っています。

憎いのはロシア人ではなく戦争、そしてそこから来る様々な分断。

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