「何年も先までチケットが完売している」「滅多にチケットが手に入らない」
ワーグナーの聖地ドイツのバイロイトで開催される夏の音楽祭、バイロイト音楽祭についてはこのように言われてきました。チケットの入手は困難を極める、というのが定説となっていました。小泉首相が行けたのは特別な配慮によるもので、一般人はまず買えないんだよ。
バイロイトに関しては私がクラシック音楽に親しむようになった30年ぐらい前はそう言われていましたし、今でもそうなんだろうと思っていました。バイロイト音楽祭でもいよいよチケットのネット販売が始まったとき、15年ぐらい前でしたっけ?すごい行列ができて(文字通り行列の出来るウェブサイトだったような気がしています)なかなか入店出来ない、そういう状況だったように思います。
ともかく「バイロイトには一般人は滅多に行けない」そういうイメージが定着していたのです。しかし今年はどうだ。7月25日から開幕することになっていますけれど、完売している公演はいまのところなんとわずかに2つ。ほぼ全公演がまだ販売中だという。
SCHWINDENDES INTERESSE – WAGNER WEHRT SICH GEGEN KRITIK – BR
https://www.br-klassik.de/aktuell/news-kritik/bayreuther-festspiele-2023-nicht-ausverkauft-ioan-holender-kritik-regietheater-100.html
これはなんでなのか。コロナで人々が戻ってきていないからなのか。
かつてウィーン国立歌劇場の総監督を長く務めたイアン・ホーレンダーは分析して曰く「疑わしい指揮者」「貧弱な歌手陣」さらに「理解困難な演出」もその理由であると(もともとのストーリーをねじ曲げる「新」演出は滅びるべきと私も心から思っています)。バイロイトの現状は、そもそも全ての歌劇場に警鐘を鳴らすものである、これは「世界的なオペラの終焉の兆候ではないか」と語っているのであります。
それに真っ向から反論するのが現在バイロイト音楽祭を率いるカタリーナ・ワーグナー(作曲者の直系)。現在最高のワーグナー歌手を揃えている、要件を満たさない歌手とは一体誰なのか教えてほしい、演出については多様性に満ちていて、何年もかけて演出は作り直されている、新しい演出は作品に新しい視点を開くために不可欠だ、とインタビューに答えている。またコロナ後人々はチケットを前もって買わなくなっている、直近に買う傾向がある、とも分析。
BRによりますと、確実なのはバイロイトの観客が、その構成も含め変わったということだ、とあります。
またDiapasonの記事は、実際の販売率が音楽祭終了後に精査される事は間違いがないだろう、ドイツの文化大臣は音楽祭の現状とカタリーナ・ワーグナーの方針に批判的である、と結ばれています。
Pourquoi Bayreuth n’affiche plus complet ? – Diapason
https://www.diapasonmag.fr/a-la-une/pourquoi-bayreuth-naffiche-plus-complet-38910.html
これは今年だけのことなのか。もしかすると「バイロイトのチケットは買えない」という時代はもう終わったのかもしれません。それはそれでなんか時代を感じるというか、「買えない」が永続してほしいなとも思います。
チケットは「完売」に越したことはない。
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