ヴァン・クライバーン国際優勝者のイム・ユンチャンの生き様

ヴァン・クライバーン国際優勝者、というタイトルが諸刃の剣であることはその昔、中村紘子さんが著書で書いておられたのでした。結局のところヴァン・クライバーン国際の優勝者で国際的な大スターに有名になったのは、ラドゥ・ルプーだけやろ(しかもクライバーン国際の後のほぼすべてのコンサートをキャンセルし、研鑽を積み直してリーズ国際で優勝したことから、リーズ優勝をむしろ出発点とすることもできる、というのが中村紘子さんの考えだったかなと)というのでした。

しかしそんなジンクスもそろそろ打破しようぜっていうか、昨年優勝したイム・ユンチャンはどうだろうか。最新のインタビューがニューヨーク・タイムズに出ていたので読んでみたところ、唸らされる内容だったのでちらちらとポイントをご紹介したい。ポイントを読んで唸らされちまった場合はぜひ原文を読みに行って欲しい。

A 19-Year-Old Pianist Electrifies Audiences. But He’s Unimpressed. The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/05/09/arts/music/yunchan-lim-new-york-philharmonic-rachmaninoff.html

●クライバーン国際コンクールのファイナルの模様は再生回数1100万回越え
やばいでしょ。韓国からのアクセスもすごいんだと思うんですけど、それだけではないでしょう。映画にしろポップスにしろ、韓国が世界を巻き込んで行く力のようなものを感じるのは私だけではないはず。

●ラフマニノフの協奏曲で、通常ピアニストがもっと遅く、と言うところをもっと速く、と言う
フィギュアスケートと同じく、気がつけば人々は4回転を飛んでいる。そういう風に捉えるべき素敵なプチエピソードですか。

●SNSはあまりやらない
SNSは創造性を損なうと考えているからあまりやらない、というのは現代を生きる10代の若者らしからぬ発言で、とても好感が持てる。むしろ山奥で一日中ピアノを弾きながら一人で過ごすのがいい、というのはますます楽しみである。悪い大人に染まらないでいてほしいものだと思います(適当に力を抜けばええんやで、というのは事実にしても、「適当」のバランスの取り所は常に難しく、気がつけば堕落していることもしばしばなので)。

●自分には才能がないと思っている
うふふ(←それだけか)。
いや、逆よりもずっといいことだと思いますね。でもいつか「自分には才能があるかも」と気がつく日がくる、その後にアイデンティティーのクライシス(自我の芽生え)が起こるかもしれず、それが悪い方向に行かんか父さんは若干心配や!

●ピアノを始めたのは7歳
サッカー、野球、音楽に囲まれた生活を送っていた。ピアノに興味をもつきっかけは、母親が妊娠中に買ったショパンやリストの音楽を聴いて育ったからとありました。7歳からピアノを始めるっていうのは極めて遅い。超遅い。それでここまで行くとか信じられない。が、この続きがすごくてですな・・・

●クライバーン国際中は20時間練習することもあった
ちょっっっっっっ、にじゅう・・・・・・・時間???どんだけ練習してんの。聞いたことないレベルで練習してるし。好きこそものの上手なれと言いまして、練習が苦にならない、もっと上達したいという気持ちが人を成長させるんで、本人が苦にならないならそれでいいと思うんですけど、20時間はさすがにやばい。20時間っていう数字だけをまねしちゃだめですからね。でも20時間っていうのは聞いたことがないなあ(2回目)、白目むいちゃうわ。

それではこのあたりで、本人が「やりたかったことの3割しか出来ず、3分しか見ていられなかった」と語る、ヴァン・クライバーン国際で優勝を決めたラフマニノフの協奏曲第3番の演奏をご覧下さい:

これは本物のスターが生まれた瞬間なのかもね。

ところでホロヴィッツの1978年のカーネギーホールで弾いた第3番は少なくとも1000回は聞いたという話も素晴らしい。最後メータとずれずれになるのも1000回聞いたって事やな。あっちがった、メータとずれるのはエイブリー・フィッシャーホールのやつやね。あれは1978年9月で、カーネギーホールでやったのは1月のオーマンディとのやつですね。

なんかマニアックな話で終わっちゃってごめん。

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