ピリスは引退した、と思っておられる方が多いかもしれませんがそうではありません。引退の引退宣言をしているかどうかはわかりませんがっていうかたぶん宣言はしていませんが、ともかくピリスはコンサート活動を今でも続行中です。
引退をいっとき宣言したのは、ピアノが弾けなくなった、あるいは弾く意欲がなくなったというわけではなくて、音楽ビジネスというものに飽き飽きしたからだったかと思います。
音楽ビジネスというのはまあ難しいもので、音楽とビジネスは相容れない部分があるのはそうですが、しかし演奏してお金をもらう、という行為がすなわちビジネスであります。ビジネスは嫌ですねんということになると、じゃあ無料で弾くのか、いやそれも無理、みたいな、なかなか矛盾を抱えながら生きている、それが音楽家なのです。どこかで折り合いをつける必要がある。
しかし、あまりにも、こういうとあれですが「強欲な」音楽ビジネスマンという人たちが一部いるのもまた事実であって、そういう人たちとともにいることに疲れた、ということなのだろうと思っています。ピリスは、そういうビジネス&ビジネス特化型の人たちではない、音楽を純粋に愛しつつビジネスもする、そういう人たちとなら仕事をします、演奏しますという姿勢で活動続行中なのだと私は解釈しています。
ピリスはいま78歳。昨日夜はロンドンの名リサイタルホール、ウィグモア・ホールでシューベルトとドビュッシーのリサイタルを開催する予定でした。
シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調D664
ドビュッシー:2つのアラベスク
ドビュッシー:ベルガマスク組曲
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シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調D960
・・・ああいいプログラムだ。
そんな自分のため息が聞こえてくるようです。いやほんと。静けさ、落ち着き、そういったものがあふれる、いや、あふれるというか、そういうものがそっとある。音楽が、それこそそっとどこからともなく聞こえてきている、そういう雰囲気が漂いまくりではないか。いいプログラムだ。そんな自分のため息が(以下略)。いやほんと、めちゃくちゃいいプログラムですね。
ところが「けがをした」という理由で公演は中止に。
けがの内容はわかっておりません。昨年9月にラトビアで転倒して公演が中止になったときも、わりかしすぐに復帰して演奏していました。そこまで大きなけがではないことを願いつつ、ラトビアの時と同様、もちろんご無理をなさらぬことが最優先ですが、すぐに復帰されることを静かに自室からお祈りいたします。
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