苦境のメトロポリタン歌劇場、新作オペラ製作に力を入れる方向にシフト

ニューヨークタイムズ紙によりますと、メトロポリタン歌劇場の今シーズンの来場者数はかなりやばいということであります。3億600万(406億円ぐらい)ドルある基金(資本金みたいなものか)から来シーズン最大3000万ドル(40億円ぐらい)を取り崩すということです。また今シーズンは215回の公演があったそうですが、来シーズンは10%公演の数を削減することにしたそうです。

https://www.nytimes.com/2022/12/26/arts/music/metropolitan-opera-endowment-contemporary.html

原因は「パンデミックとその余波」としていますが、興味深いというか考えさせられるのが、いわゆる古典的な作品の入場者数が特に少ない、という点で、まあ売れ行きって言うのはオペラの場合演目だけで無くキャストや指揮者にも左右されたりするのでしょうけれど《ドン・カルロ》がたったの40%の入場者数。なるほど。これには驚かされる。そのほか入場者数が少なかったのが《ムツェンスクのマクベス夫人》(これはロシアの作品だから、という考えが成り立たないわけではない)、《ピーター・グライムズ》(ブリテンはもともとそこまで高人気とは言えないからか)だそうです。

その一方で新作オペラの《The Hours(めぐりあう時間たち)》や《Fire Shut up in My Bones》は完売していたとのことで、今後は新作オペラの製作にも力を入れるという方向に動く、とあります。ピーター・ゲルブ:「課題はかつてないほど大きくなっている。前進する唯一の道は改革である」。

改革という言葉に保守的な我々はつい身構えるのですが、この2作を見ますと、新作とはいえ、いわゆる現代オペラというか、ギンギンに不協和音マックスの超絶難解な音楽ではなく、メロディアスでキャッチーで、普通に楽しめる(どういう表現かと思いながら書いていますが)ところは大きなポイントでありましょう。しかも《めぐりあう時間たち》の方はルネ・フレミングやジョイス・ディドナトが出ている。大スターが出ているというのは効果があるでしょう。再びゲルブのコメント「オペラ歌手自身が新しい作品を受け入れ、これが未来だと理解していることが大きな転換点だ」。

結局オペラとは「歌」であるべきであって、歌って言うのはやっぱり感情に訴えかけるべきもの、気持ちよく美しくないといけないっていうことだと思うんですよね。複雑なリズム、難解な音の跳躍、高度な和音なんかも結構ですけれど、それは多くの人からは見向きもされない。「いいな」って純粋に思ってもらえません。

《めぐりあう時間たち》:

https://www.youtube.com/watch?v=LWFBIZjGdvg

こういうオペラならわざわざメトに行って見てみたいなって思いますもん。来シーズンのメトのチケットの売れ行きに注目したい。(きれいな)新作はますますもてはやされるのか。

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