「ストリート・ピアノは大衆社会の崩壊の前触れではないか」という説について

ストリート・ピアノ、日本でもあちこちにありますね。先日、ルールを守らない人が多すぎるという理由で撤去されてしまったストリート・ピアノもありましたね。

アイルランドの新聞、アイリッシュ・タイムズにストリート・ピアノが大嫌いだという24歳の若者がコラムを寄せていて、「コールドプレイばっかり弾くんじゃねえよ」「Facebookで子供の自慢すんじゃねえよ」などと吠えています。「(将来の)歴史家は『何考えてたんだ?』と問うだろう」「これは大衆社会の崩壊の前触れかもしれない」。

When historians talk about the public piano, they’ll ask: ‘What were they thinking?’The Irish Times
https://www.irishtimes.com/life-style/2023/05/03/when-historians-talk-about-the-public-piano-theyll-ask-what-were-they-thinking/

おいおいそんなトゲトゲすんなよ、なあ兄弟、などと腹の出たおっさん(私のことです、念のため)なんかはそう思ってしまうんですけれど、きっと若者はトーフの角に足をコツンとぶつけただけで憤怒して大爆発するのであろう。そういうパワーが世の中を動かしてきたのだろうなあ、ともぼんやりと思うわけで、そう考えると、(意見は違えども)いいぞその調子だ!おっさんにもそのパワーを分けてくれ!!

ストリート・ピアノ。ご存じですね。たいていはアップライトピアノ(上の写真のような縦型のピアノ)であることが多いですが、グランドピアノのこともあります。名古屋駅でグランドピアノを見たことあるよ。ストリート・ピアノってどうして流行っているんでしょう(流行っていると言っていいのかどうかはわからないんですけど)。

ストリート・ピアノって、そもそもストリート・ピアノ用として新たに購入されるものではなくて、行き場を失った中古ピアノがストリート・ピアノとして再利用されている場合がほとんどか、あるいはそれが100%なのではないかと思います。

つまりこれは「もったいない」の精神ですね。子供のために、もしくは老後の楽しみでピアノを買ったはいいけれど、飽きた、合わんかった、子供はもう巣立った、などの理由で使わなくなってしまった、場所を塞ぐので、ということで売却されっちまったピアノの第2の(あるいは第3や第4の)人生ということになります。複雑な工程を経て手作りで作られているピアノは、どんなに安いアップライトピアノでも新品で買うと50万円はしますよね。高いものだと数百万します。すなわち高額ですから、そうそう簡単にじゃあ大型ゴミへ、とはしづらいのはわかります。ピアノ売ってちょうだいー。みんなまーるく・・・(以下略)。

ストリート・ピアノとして再利用することで「捨てた」という罪の意識を持たないで済む。これは大きい。

で、ストリート・ピアノは駅とかショッピングモールとかに設置されるケースが多いんですが、これは相性がいいからですね(全国のどこにストリート・ピアノがあるかを教えてくれるサイトもあります。)。そもそもが多くの人が行き交う場所で、騒音も相当あり、ピアノが鳴っていたところであまり気になるものでもないから。そして行き交う人々もそこにずっととどまらず、超絶うまかろうが絶望的にその反対であろうが人々はあまり気にせず流れて行き、いなくなるから。

これが病院の待合室、とかですと、もともとが静かな場なうえ「早く自分の番号こないか」と多くの人たちがイライラしているんで、そこにもしも、ですよ、上手の逆しまの方がいらっしゃって延々とブンチャッチャ、という事になると、イライラが爆増する。症状が悪化する可能性もある。先生!!

なので駅とか相性のよさそうな場所が選ばれるわけでしょう。どうかギスギスせずにみんなで楽しんでほしい。

ところでストリート・ピアノとは少し話がずれて行くんですけど、アップライトピアノって、もはやものすごくニッチな楽器になってきちゃっていますね。あれはアップライトピアノの音が好きな人がやる楽器。ピアノや音楽を学ぶのにアップライトピアノである必要は全くないんです。電子ピアノで全然オッケー。「電子ピアノだとタッチが違う」とか言われるかもしれませんけれど、グランドピアノのタッチとアップライトピアノのタッチは構造上全く異なるものなので、それはあまり説得力を持たない。先日ご紹介したアンジェラ・ヒューイットも旅先ではしょっちゅうデジタルで練習するって言ってるし、皆さんがえっ?と驚くような著名ピアニストの練習のためホテルに電子ピアノを運んだことも私自身何度かあります。プロはすでにタッチを知りつくしている、というのはあるとは思いますけれど、それでも。

よほど郊外に住んでいるか、高価な高性能防音室(数百万円することもある)を用意できる人以外は電子ピアノでいいと私は思いますよ。むしろマンションでアップライトピアノを買う前にはよくよく考えることをおすすめしたい。音楽は暴力にもなりうるのです。

ストリート・ピアノが大嫌いという人の気持ちも、まあまあそんなトゲトゲすんなよとは思いますけれど、少しは理解できます。

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