コンサートホール×オーケストラ 理想の響きを求めて

画像:アルテスパブリッシングより

こういう本は大好物です。

コンサートホール×オーケストラ 理想の響きを求めて 音響設計家・豊田泰久との対話 – アルテスパブリッシング

はたして理想の響きなんていうものがあるのかどうか、ということなんですけれども、すべての人にとって共通する理想の響きなんてないんだろうな、とも思いつつ、最大公約数的にと言うか、可能な限りもっとも多くの人が好んでくれるような、そういう響きを求める、ということが大事なんだろうか、とも思ったりもしないでもないでもないでもないです。

どっちやっていうことなんですけど、ほんとどっちやねん。

オーケストラから(あるときはオペラから)リサイタルに至るまで、という、コンサートホールというのは本当に特殊な場所です。他の用途に替えが利かないから。馬鹿みたいにお金がかかるのに用途は限りなく限定されている!!!このことに自覚的である人はどれほどおられますでしょうか。コンサートといっても、クラシック音楽など、アコースティックなコンサートにほぼ限定される。なんとも贅沢な場所なんですよ。

音がほどよく響き、ほどよくブレンドされ、ほどよくいい感じで人の耳に感じられるようにホールの残響を作るという技術は、しろうとである我々にはちっとも理解できませんけれど、少しは理解できたかも、と思わせられる素敵な本です。

「残響時間というのはウィスキーのアルコール度数みたいなものですね」

という言葉を見つけただけでこの本を読めてよかったと思いますね。ほかにも様々、ブーレーズやサロネンのこととか、フランク・ゲーリーのこととか、あるいはバレンボイムのこととか、実におもしれえや!!!(大変偉そうで申し訳ございません)、とふんふん言いながら読める本で、基本読むのが遅い私ですが、気がつけばあっという間に読み終わっていました。上の言葉が気になったら、本屋へ走れ!

しかも全く期せずして私はちょうど、この本の中でも話題に出ている札幌コンサートホールKitaraに向かう道中で読みはじめたのでした。雪の中島公園のなかに静かにたたずむKitaraの正面玄関を目にして、実に「なるほど!」「なるほど!」と個人的にイミフに感じ入っていたのでした。

そのホールにいる可能な限り全ての人に喜んでもらうことも大事であれば、こうして、ひとりひとりの個人の、個人的な体験、経験、思い出として心に触れるということも、コンサートの音響(あるいはこの本)が持つマジックなのですね。

札幌は今年は雪が少ないですよ、と言われていたのに雪がドカーン!と積もっていてほんとうにきれいでありました。

どうやってコンサートホールの響きが作られているのか、音響設計ってなんなの、そういう疑問はぱっと解決するわけではないかもしれませんが(安直な解決策なんていうものは存在しないでしょうし、この本の目的でもないと思います)、「音の響きを愉しむ」ということへの解像度がかなりあがったような気になれる、控えめにいってかなり、もしくはめちゃ愉快な本です。

こういう本は大好物です(二度目)。

コメント

コメント一覧 (3件)

  • ご返信ありがとうございます。
    山根さんのブログもいつも楽しく読ませて頂いています。
    特に、コンサートを運営していく上の困難は、到底、我々のような凡人では、耐えられるようなものではありません。
    今後のご活躍も期待しております。

  • 今回は、私も気に入っている本を「大好物」と称して、ご紹介いただきましたこと、とても嬉しいです。筆者は、新聞社勤務だった方のようですが、多くの音楽関係者に対する取材を重ねて執筆された渾身の一冊で、非常に中身の濃いものだと思います。個人的には、「大地の歌」をめぐって起きた「事件」の章が謎解きのようで、最も興味深かったです。
    また、おそらく、一度目の「大好物」と思われる、「親愛なるレニー」もまた、素晴らしく感動的なものです。筆者は、米国の大学教授ですが、やはり凄まじいばかりの調査の上で執筆された一冊で、心に迫ってくる場面の続出です。個人的には、日本人女性がレニーと家族の間で苦悩する姿が印象的でした。
    さて、この二冊は、何れも音楽を専門としている方では、ありませんが、新鮮な眼で視て受けた感動を綴っているところが特徴で、それだけに素晴らしさが際立っています。
    一方で、実際に音楽を奏でる側から執筆されたものとしては、「ティンパニストかく語りき」が出色の一冊となっています。筆者は、元新日フィルのティンパニストで、ベルリン・フィルで学んだことを中心にして、多くのティンパニスト・打楽器奏者や小澤征爾氏を含む指揮者のことに触れ、オーケストラの現場での臨場感に溢れた内容になっています。

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