読後感:フランツ・リスト 深音の伝道師

美しい表現に出会いました。

本読んでいて、いいなー、と思うと自然と遠い目になって、しばらく本から顔をあげそれを味わう。そういう瞬間って、ありますよね。その瞬間が大好きです(その瞬間があったな、って繰り返し思い出しながら味わうのも好きです)。

理想を言えば、目を上げたその先には山や森が広がっていて、爽やかな鳥の鳴き声が聞こえたり川のせせらぎなんかが聞こえてきたりするとなおよいのですが、まあそこはそれ、はは、うちですから。殺風景なモニターとスタンドライトが目に入ってくるわけ。あ、ホコリがたまってら。

「フランツ・リスト 深音の伝道師」(三宮麻由子著)アルテスパブリッシングAmazon

リストがお好きなんだな、「クリスマス・ツリー」とかもお弾きになってるんだ、などと思いながら読み進めていたところ、ユタ州に留学して、みんなの前でピアノを弾いてみたらみんながめちゃくちゃに喜んでくれた、っていうところの箇所があまりにも美しかったので、照明のシェードについたホコリそっちのけでジーンとしてしまいました。なおドラえもんからジーンマイクは貸していただいておりません。掃除しろ。

褒められるよりも、喜んでもらうほうがずっとうれしい」(P133)

これを読んで、この前後の文脈もあってのことなんですけれど、素晴らしいなと思ったんですよ。私もコンサートの現場に長く関わっていますけれど、そして演奏する側の人間ではありませんけれど、お客様に喜んでいただけた、ということが、それこそが“全てのやる気の源”だったりします。特に、わたし詳しくないけど、このコンサート面白そうだから来てみたんだけど、きてみたら本当に楽しかった、って言う雰囲気とともに発せられる「楽しかった」がどれほどうれしいか(もちろん、マニアの方々に喜んでいただけるというのもうれしいことです)。

言葉を尽くして、そのコンサートの、あるいはその演奏のどこがよかったのか長々と語っていただくのももちろんいいのです。しかし、しみじみと一言「楽しかった」と言って笑顔でお帰りいただけたのであれば、コンサートを主催する側、提供する側の人間として何よりじーんと来るんですよ。今日はいいことできたな、他人を少しでも幸せにできたなって思うんですよ。

これはわたしが常々思っていることなんですが、この本からそれをまた別の角度から思い起こさせていただけて、温かい気持ちになったと申し上げたい。本文をお読みいただいた皆様も、コンサートに行って、あー良かったなと思ったらぜひ「良かった」「楽しかった」と一言でよいので主催者に言って帰ってみてください。あいつら子供みたいに喜びますから。

そんなわけでこのページを読んで私はしばらく感慨にふけっていたのですが「ホコリ掃除しよーや」って頭の中のA型の血が騒ぎはじめましたんで、拭き拭きしておきました。

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