アメリカの文化芸術団体は政府から助成金をあまりもらわず個人の寄付とかそういうので予算を組み立てていく。ヨーロッパは助成金の割合が高い。イギリスはというと、その中間、という感覚のようです。
しかしこのたび、イギリスの助成金のお財布でありますアーツ・カウンシル・イングランドは、ロンドンの芸術団体への大幅な助成金のカットに踏み切り、それがわりかしホットな話題になっています。
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-63512050
どういうことかというと、ロンドン一極集中はよくない、文化はより全国的にレベルアップをされるべきで、限られた予算の割り当てを、ロンドン中心から全国に広くしていくぞと、そういう考えに基づいての再分配なのだそうです。このあと2026年までにロンドンに割り当てられてた助成金のうちの5分の1を、全国に散らして行くそうです。
なるほど。5分の1はでかい。
その結果何が起こったかというと、一番目立つところではイングリッシュ・ナショナル・オペラ。ここはブリテンの《ピーター・グライムズ》の初演なんかが行われた由緒正しきところですが、そこからゴソッと助成金が消えた。年間1260万ポンド(20.9億円ぐらい)がゼロへ。強烈。その代わりに、イングリッシュ・ナショナル・オペラは拠点をマンチェスターへと移すことにすれば(ロンドンの劇場、ロンドン・コロシアムは引き続き運営するとして)、3年間で1700万ポンド(28億円ぐらい)の助成金を得る、ということになったと。それにしても半減を上回る削減というのはきっつい。マンチェスターって言う都市はポジション的にはイングランドの2番手3番手ぐらいらしいので「東京のオペラハウスが名古屋へ引っ越し」みたいな感覚でしょうか。「文化庁が京都へ」みたいな。それはちょっと違うか。
ロイヤル・オペラも年間290万ポンド(4.8億円)、サウスバンクセンターも年間190万ポンド(3.1億円)の削減とあり、しかもロンドンの外にあるグラインドボーンも86万ポンド(1.4億円)、さらにウェールズ国立歌劇場も220万ポンド(3.6億円)の削減だそうなので、いわゆる伝統的なところ、既得権益への採点を辛くしている、ということだったりもするのかな?と思ったりもします。
既得権益っていう言葉を使うときつく響きますけれど、英国の文化の中枢を担ってきたのはやはりロンドンや伝統的な劇場だったりするので、そういうところの予算を取り上げて全国に散らしたところで効果はどれほどあるのだろうか。むしろ限定的で、英国の国際的な文化力の衰退を促すではないか?という危惧を感じぬでもないですがどうでしょうか。マンチェスターにイングリッシュ・ナショナル・オペラが移転して成り立つのか?
いや、こういう考えはロンドンといったいわゆる大都会に住まない人たちを切り捨てる危険なエリート思想なのかもしれません。ネットでつながった21世紀はもはや一極集中の時代ではない、という考えも出来ます。コロナでリモートワークも進みましたし、人の生き方はますます多様化していて、そうそう簡単に片付けられる問題ではない、とも言える。
少なくとも他山の石というか、これからの芸術文化のあり方なんかを問われているのではないか。イギリスが率先してその実験をしている、と見ることも出来る。そして我々は「おーおー、やっとるやっとる」と対岸の火事を眺めているだけではいけないでしょう。これは英国だけの問題ではないだろうと思うのです。
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