クラシックの音楽家が新しいCDあるいは録音を出すと言うことに対する難しさやハードルはますますあがっていて、出す意味ある?とすら思うこともよくあります。
あるイギリス人の老ピアニストから言われてなるほど、と思ったのですが、録音というのはポートレート写真を撮るようなもので、そのときの自分の姿の記憶装置である、という考え方もあるようです。
他人の家に行くと、壁や棚の上なんかに家族写真があって「それはこのときにこういうことがあって」みたいなそういう話を聞いて、なるほどー、と話題に花が咲く。そういうのに近いというか、わざわざベートーヴェンのピアノ・ソナタをもう一枚世に出す意味は世の中的にはいまやあまり~ほぼなくて、むしろもっと個人的な意味合いが大きい。
コンサートホールでCDを買うという行為についても、わざわざベートーヴェンのピアノ・ソナタのCDを増やすと言うよりも、あの日あの時あの場所でコンサートにいった、というイベントに対する記憶装置として働く割合が高いと考えています。もちろんそうじゃない!という熱心なファンの方がおられるのも承知しておりますが、どちらかというと、上に書いた理由で録音し、録音を買い、という割合のほうが高いと思っています。
そんななか、いまでもこの人のなら!という理由でCDが、録音が売れる極めて少ない音楽家の一人、それがユジャ・ワンでしょう。スター中のスター。存在自体が事件。
新しく3月に発売されるアルバムというのが「アメリカン・プロジェクト」と題されていて、ジャジーな感じのピアノ協奏曲なんだそうです。テディ・エイブラムスという、カーティス音楽院で共に学んだ作曲家指揮者ピアニストによる35分のピアノ協奏曲だそうで、もともとはラプソディ・イン・ブルーを一緒にやろうぜ!っていうところから話がはじまったようで、気がつけば11のセクションを持つ35分もの大協奏曲になったのだそうであります。
これが普通に(普通にとか言ったら怒られそうですけれど)録音されて発売されてもほぼ全くお金を生み出さないのはおそらく確実でしょうけれど、ユジャ・ワンが弾いているから世界的に売れる。なぜならユジャ・ワンだから。
どういう曲なのかはちょっと調べて見たところ映像とか音源が見つからなかったのでわかりませんけれど、この新しいアルバムにはアンコールピースとしてユジャ・ワンと仲良しのマイケル・ティルソン・トーマスの作曲した作品も入っていて、「You Come Here Often ?」(よくここへ来るの?とかそういう意味)という愉快なトッカータ風の曲。
2019年作で、実際にユジャ・ワンがアンコールで弾いている映像があります。見守るティルソン・トーマスの顔がいいっすね:
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