マイケル・ティルソン・トーマス、演奏の途中で立ち去ろうとする

アメリカ人指揮者マイケル・ティルソン・トーマスは79歳。悪性の脳腫瘍と闘いつづけ、もうこれが最後かもしれないという人々の予想を裏切って、なんども指揮台に戻って来ている、指揮を続けている。これはほんとうに大いなる驚きで、世界中の人々、音楽関係者に勇気と感動を与え続けています。

そのティルソン・トーマスが、ロンドンに行った、というから驚きですね。なんという長旅!・・・・・・え、長旅だよねと思って念のため調べて見たらサンフランシスコからロンドンまでは10時間かかる。これは長い。当然ビジネスかファーストクラスだろうとは思いますが、それでも身体にかかる負担は相当なものだ。そうだ、ロンドンへ、行こう。というのはそれだけでとてつもないことだなと思います。

そしてプログラムはなんとマーラーの3番。100分間休憩無し一本勝負という、とんでもない体力を要求する作品。まじか。こんな曲を演奏しようとかどこにそんな体力があるんや。化け物か。すごい。しかも画像を見ると立って、つまり椅子なしで演奏している!

しかしさらに別の意味で2024年5月13日の夜は忘れられない夜となったようです。ロンドンのバービカンセンターでロンドン交響楽団を指揮していたティルソン・トーマスは、演奏の途中、正確には5楽章が終わった段階で突如として舞台から去ろうとしたというのです(マーラーの3番は全6楽章)。

スコアを閉じ、聴衆に向かって楽しげになにかを語りかけ(いくつかのレビューを読みましたが、いいリハーサルだった、的なことを言ったという報道もあり)、演奏を終えようとしたというのです。

聴衆がいるのにどうしてリハーサルだなんて思うのか、そんなことある?と思われるかもしれませんが、世には公開リハーサルというものもあって、客席に少なからぬ数の人が座っていることもあります。それと勘違いした、ということでしょうか。

1分ほど(3分と書いているレビューもあり)、舞台上で、ソリストのアリス・クートやオーケストラのメンバーが優しく語りかけ、ティルソン・トーマスはふたたび指揮を始めた。

これを病と関連づけなかった人はいないのではないか。誰もが息を呑み、一瞬何が起こったのか判らず混乱したことは間違いがないでしょう。結果として6楽章の演奏が終わったあとスタンディング・オベーションが沸き起こったとあるのはいろいろな意味で当然のことかと思います。

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