抗議したければ告解へ、いや、国会へ行け、であります。しかし欧米のクラシック音楽のコンサート、オペラ、その他で時々活動家が現れている、というのは読んで知っていましたが、まさか現場で目撃することになるとは思わなかったなあ、です。
エリザベート国際コンクール会場のボザール入り口にて休憩中とあるベルギーの方に「次はベルギー人だよ、きっとうまく弾くと思うよ」と言われ、私のワクワクスイッチがオンになりました。これは・・・・・・来る!ブラボーの大合唱が来る!とほぼ確信しました。だって、ベルギーという国の、つまり地元の期待のピアニストが出てくるって言うんですよ?そして好意的に見られているんですよ。これは間違いない。来る。
そしてあの演奏でしょう?デフォールトの新曲、抒情と硬い打鍵が組み合わされ、ストーリー性が浮き彫りになった集中力の極めて高い演奏だったと言えましょう。この時点で「ほぼ確信」は「確信」に変わりました。
そして、あのラフマニノフでしょう?
皆さんも会場にお越しになると判ると思うのですが、周りの人たちが客席で首をゆっくりと振ったり、手をゆらゆらと動かしている、あるいは大音響の時に隣に座る彼氏に耳打ちをしている。その様子を観れば、それがポジティブな反応なのか、ネガティブな反応なのかが判ります。圧倒的にポジティブだったもんな。
恵まれた長身から繰り出される強烈なクライマックスの和音は、とんでもない圧で客席に突破してくる。オケとタイミングが合わず、おっと!ちょっとずれた。でも動じない。あえて拍を強調し「ずれんなよ!来いよ!」とばかり涼しい顔でねじ伏せ(合わせ)にかかる様も実に堂に入ったものだ。
あああー。これは絶対にやべーのが来る!!来る、来る、大合唱来る!!
ほんで最後のあの和音と共に、来た。カタストロフは来た。大絶叫か。もんのすごい大絶叫や。みんなぷっつんや。こんなん普通のコンサートでは絶対にないデシベル数やろ。師匠大変です!!デシベルカウンターが振り切れました。繰り返します。振り切れましたっっ!!
これこそがコンクールというものを聴きにくる人たちの、最高にアドレナリンな瞬間でありましょう(実はあともう一回アドレナリンがドバーッと出る瞬間があるのだがそれについては説明するまでもないでしょう。優勝者の発表の瞬間ですね)。
私は20年ぐらい前、ヨシフ・イワノフというベルギーのヴァイオリニストが2位に入ったのをここボザールで見届けていたのですが、その時も凄いブラボーだったけど、それより凄かったかもわからんね。あの時より耳が遠くなっているので、それを差し引くともっとずっと凄かったかもしらん。愛国心万歳や!!(誤解なきように追記しますが、愛国心だけではない、見事な演奏でした)
大絶叫が鳴り止まないなか(ピアニストにカーテンコールに応えることは許されていないっぽいので、いちど引っ込んだらもう出てこないんですが、大喝采が続いていました)、客先にビラがばーって飛んできて、うあああみんなの喜びが頂点に!!
・・・・・・と一瞬思ったが違った。
まさかの活動家の方々でした。マスクを被って、最上階の左右に横断幕を掲げて、なんか叫んでいる。このコンクールのスポンサー企業に対して、ガザの虐殺に加担している、環境破壊と気候の混乱を助長している、というような事を語り、掲げていたのです。おやまあ。
それに対して盛大なブーイングが飛んだのだが、しかしこれが特筆に値すると思うのですが、そのブーイングは活動家に対する恨み、雰囲気ぶち壊しや、といった不満や失望ではなく、いましがたの大ブラボーで身体が暖まっていたところ、むしろまだ叫び足りないと思っていた聴衆に絶好のガソリンが注がれた形で、その場の雰囲気はブーイング&満足、そして笑顔へ。という方向になっていた。実に不思議な光景であった。
彼らもまさかポジティブなエネルギーでブーイングが戻って来るなんて思いも寄らんかっただろう。さぞかし鼻白んだのではないか。どうか、活動するなら国会へ。
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